WAIS特集 #1|歴史編(Binet → Wechsler → WAIS-5/
日本の歩みまで)
知能検査の源流は1905年のBinet–Simon。成人を正面から測る流れを拓いたのがWechslerで、1939年のWechsler–Bellevueを起点に1955年に初代WAISが誕生。以後、WAIS-R(1981)→WAIS-III(1997)→WAIS-IV(2008)→WAIS-5(2024)と改訂され、総合IQだけでなく指標プロファイルを重視する設計へ発展した。日本ではWAIS-IV(2018)が現行の実務標準で、海外ではWAIS-5が登場・移行中。理論面ではg因子→多因子→CHC理論の統合的潮流が背景にある。
IQという一つの数字は“入口”にすぎません。Wechslerが「成人を多面的にとらえる」発想を導入して以降、WAISは言語・視空間/推理・ワーキングメモリ・処理速度などの機能別プロファイルを描く方向に進化してきました。結果として、臨床・教育・産業で支援の仮説を立てるための地図としての価値が高まり、単一スコアの単純比較とは別次元の使い方が定着します(その思想は、最新版のWAIS-5まで連続しています)。
1905年:Binet–Simonが学齢児の教育的ニーズを把握するための検査を発表。のちのStanford–Binetへ受け継がれます。ここでの中核は「標準化された手続きと比較枠」という発想。教育の場で“公平な支援”に結びつける道具として構想されました。
1910年代〜1930年代:心理測定の理論面でSpearmanのg(1904)とThurstoneの一次精神能力(1938)が提案され、単一の一般能力 vs 多因子という視点が論争的に併走します。のちのWAISは、単一IQでの単純評価から、複数能力のプロフィール化へ舵を切る素地をここで得たと言えます。
用語メモ
g因子:多様な課題に共通する一般能力。
一次精神能力(PMA):言語・数・空間など複数の“群因子”。「1か多数か」の論争は、その後の統合モデル(CHC)へと収束していきます。
Wechsler–Bellevue(1939):成人を対象に、言語(Verbal)と動作(Performance)の二系列で測る枠組みを導入。Stanford–Binetの“児童中心”を乗り越え、仕事や日常生活の遂行に関わる複数の能力を並列にとらえる設計が特徴でした。
WAIS(1955):Wechsler–Bellevueを継承・再編した初代WAISが刊行。偏差IQ(平均=100, SD=15)を採用し、同年代集団との相対比較が明確化。成人の臨床・教育・産業領域での評価に、新しい実務標準が誕生しました。
小ネタ(検査の雰囲気がわかる安全な例示)
Wechslerは、ことばの意味を説明する、図形ブロックを見本どおりに素早く組むといった“日常的な課題に似た”タスクを多く採用しました。実際の問題文そのものを示すことはセキュリティ上できませんが、この方向性が「能力の地図」を描く根拠になっています。
標準化データの更新、手続きの改善。Verbal/Performanceの二系列は踏襲しつつ、臨床での運用性を高めました(のちの世代に比べて“指数”という概念はまだ前景化していません)。
ワーキングメモリ(WMI)と処理速度(PSI)が独立の指標として登場し、注意・作業効率の弱さを早期に捉えやすくなりました。成人のADHDやうつ病、脳損傷後の評価など、臨床の幅が一気に広がったのはこの世代以降と言えます。
言語理解(VCI)/知覚推理→視空間(PRI/VSI)/WMI/PSIという4(〜5)指標体制が整い、FSIQと合わせて機能別プロファイルが中核に。
現在の日本の実務標準はWAIS-IV(2018年発売)。医療・教育・産業の幅広い現場で使われています。
日本事情トピック
2025年には日本版WAIS-IVの補助マニュアルが刊行され、短縮版IQ(SF4-IQ)の提示やCPI(認知熟達度指数)の紹介など、日本の運用知見が積み上がっています。
Pearsonの公式情報では、FSIQを7下位検査で45分程度、主要指標は10下位検査で60分程度と明示。年齢範囲16:0〜90:11、2024年刊。臨床効率(所要時間の短縮・運用の簡素化)が大きなテーマです。
構成面はCHC理論(Cattell–Horn–Carroll)のエビデンスと整合性を高める方向に磨かれ、下位検査の選抜・指標の定義がより因子モデルに寄り添った形へと調整されています(※具体の下位検査名・内容の開示はセキュリティ上控えます)。
重要:日本では現時点でWAIS-IVが標準。WAIS-5は海外から先行しており、日本語版への移行は出版社の公式発表を待つフェーズです(執筆時点:2025年8月17日)。
Spearmanのg(1904)は「正の相関の束(positive manifold)」を1つの一般因子で説明。
Thurstone(1938)は一次精神能力(PMA)を提唱し、複数能力の独立性を強調。
CHC理論は、Cattell–HornのGf/Gc系譜とCarrollの3層モデルを統合し、広域能力(Gf, Gc, Gv, Gs, Gwm…)→狭域能力の階層で知能構造を説明します。現行の主要検査(WAIS含む)は程度の差はあれ、このCHCの知見に設計や解釈を寄せる傾向が強い。
使い手にとっての意味
1点のIQではなく、どの広域能力が強み・弱みかを読むリテラシーが重要に。介入・支援設計(授業・職務設計・リハビリ)へ翻訳する際の“橋”になります。
田中ビネーは日本独自の改訂系譜で、1947年の初版から数度の改訂を重ね、田中ビネーV(2005)に至っています。児童・教育領域での実装が厚く、Wechsler系(WISC/WAIS)と並ぶ“二大幹”として現場を支えています。
一方、成人領域はWAIS(日本ではWAIS-IV)が標準。診療報酬の枠組み(D283-3)や、教育・産業でのアセスメントでも基幹的位置づけです。
単一値⇒多面的プロファイルへ
Wechslerの思想とCHCの流れが交差し、指数の散らばりやプロセスに重心が移りました。
測る⇒使うへ
歴史の後半は、介入・合理的配慮・政策言語(就労・教育・福祉)に接続する“翻訳力”の強化。
標準更新と公平性
標準化(norm)の更新は、時代・文化差を埋める営み。改訂は“新しい理論に合わせる”だけでなく、社会の変化に追いつく意味も持ちます。
IQ万能主義:初期の利用では、IQが選別や偏見の根拠として悪用された歴史もあります。現在は、倫理・守秘・インフォームドコンセントの原則の下、目的適合・多情報統合での運用が強く求められています。
テスト・セキュリティ:下位検査の具体項目は公開できません。問題文の拡散は測定の公正さを損ねます(採点・実施は訓練者のみ)。
文化・言語:翻訳版では文化固有の語彙・教育経験がスコアへ影響することがあるため、解釈は文脈とセットで。
診断の決め手ではない:歴史が示すのは「検査は判断の一部」。常に面接・観察・生育歴・適応行動などと統合すること。
臨床:WMI/PSIの弱さが示唆されたら、作業の細分化・時間配分の緩和・視覚手順化などへ“翻訳”。
教育:VCI強み×PSI弱みなら、口頭説明→視覚教材・録音・拡張時間などに変換。
産業:職務分析と組み合わせ、処理速度に依存しない役割設計やチェックリストでエラーリスクを下げる。
福祉/政策:適応行動(Vineland等)と組にして、生活上の支援量を行政・学校・職場と共有可能な言語に落とす(歴史的に“測る”から“使う”へ移った所以)。
具体イメージ(セキュリティに配慮した一般化例)
言語理解:抽象概念の説明が得意→チーム説明役で力を活かす/一方、速記や瞬時の照合は工夫で補う。
視空間/推理:パターン把握が速い→図で伝える/文の長い手順書は図解化して処理負荷を下げる。
WMI/PSI:課題が長く複雑だと効率が落ちる→短いステップ、締切の余裕、チェックボックス。
WAISは歴史的に、児童中心→成人の多面評価、単一IQ→プロファイル、測る→支援へ翻訳へと進化してきた。
最新版WAIS-5は、効率と理論整合を高めつつ、臨床現場での運用のしやすさをさらに押し上げています(海外先行、日本はWAIS-IVが標準)。
歴史を踏まえると、「テストは目的に従う」が鉄則。プロファイル解釈と環境調整をつなぐとき、WAISは真価を発揮します。
WAIS特集 #2「構造編」では、指標(VCI/VSI/WMI/PSI ほか)と下位検査の認知プロセスを、CHC理論と結びつけながら精密に解説。プロファイルの読み方(散らばり/GAI/CPI/信頼区間)の土台もここで固めます。
本記事はAI(ChatGPT)が執筆支援しています。正確性・網羅性は保証されません。心理検査の実施・採点・解釈は有資格者の専門的訓練が前提です。運用・導入は一次資料(出版社マニュアル、公式サイト、査読論文、倫理ガイドライン)を必ず確認してください。
Boake, C. (2002). From the Binet–Simon to the Wechsler–Bellevue: Tracing the origins of subtests. Journal of Clinical and Experimental Neuropsychology, 24(3), 383–405. (PubMed)
Pearson. (2024). Wechsler Adult Intelligence Scale, Fifth Edition (WAIS-5). Publication date: 2024; Age range: 16:0–90:11; 7-subtest FSIQ ≈45 min, 10-subtest indexes ≈60 min. (ピアソン・アセスメント)
Wikipedia. (n.d.). Wechsler Adult Intelligence Scale(版の系譜と初代1955の概説に有用)。 (ウィキペディア)
NCBI/NIH IRP. (2021). From the Annals of NIH History: Stanford-Binet.(Binet–Simon→Stanford–Binetの歴史要約)。 (irp.nih.gov)
McGrew, K. S. (2005). The Cattell–Horn–Carroll theory of cognitive abilities: Past, present, and future. In D. P. Flanagan & P. L. Harrison (Eds.), Contemporary Intellectual Assessment (2nd ed., pp. 136–181).(CHC理論の総説)(ResearchGate)
Flanagan, D. P., & Dixon, S. G. (2014/2013). The Cattell-Horn-Carroll theory of cognitive abilities. In The Encyclopedia of Special Education.(CHC概説の最新定義/概念整理)(Wiley Online Library)
日本文化科学社. (2018). WAIS-IV知能検査(日本語版)(日本の現行標準)。 (日本文化科学社)
日本文化科学社. (2025). WAIS-IV補助マニュアル(CPIや短縮版IQなどの日本の運用知見)。 (日本文化科学社)
中村淳子・大川一郎. (2003). 田中ビネー知能検査開発の歴史. 立命館人間科学研究.(日本独自系譜の史料)(ritsumeihuman.com)
Wikipedia(JP). (n.d.). 田中ビネー知能検査.(日本の改訂史の概観を素早く把握するハブとして)(ウィキペディア)
APA. (2018). Guidelines for Psychological Assessment and Evaluation.(倫理・運用原則の要点)(アメリカ心理学協会)
日本公認心理師協会. (2020). 倫理綱領.(国内での実務倫理)(jacpp.or.jp)
2025年8月17日